「最近の若手は、向上心がない」
そう感じて、悩んでいませんか?
頑張って育てようとしても響かない、任せても成長しない——そんな部下に頭を抱えている上司は少なくありません。
でも、その「やる気のなさ」、本当に本人だけの問題でしょうか?

この記事では、会社員歴15年以上で現役で10名の部下を持つ管理職である筆者が、
「向上心のない部下」への理解と向き合い方について、時代現代的なマネジメント視点から解説します。
あなた自身のストレスを減らしながら、時代に適応したチーム全体の力を引き出すためのヒントを、ぜひ見つけてください。
向上心のない部下には、変えるより活かす視点を持とう

向上心のない部下に悩んだときは、無理に変えようとせず、「なぜ向上心が持てないのか」を理解する姿勢が最も大切です。
「もっと頑張ってほしい」「やる気を見せてほしい」と思うのは、上司として自然な気持ちです。
しかし、部下本人の状況や価値観を理解せずに一方的な期待や指摘を続けてしまうと、逆効果になるだけでなく、ハラスメントと受け取られるリスクさえあります。
まずは、“なぜこの部下は向上心を持てないのか”を冷静に観察・対話し、そのうえで適切な関わり方を選ぶことが、上司としての第一歩です。

向上心のない社員に「頑張れ」は逆効果

向上心がないように見える部下にも、それぞれに“理由”があります。
たとえば、努力が報われなかった経験や、過去の失敗、評価制度への不満、そもそも今の仕事に興味が持てないなど…。
向上心がないのではなく、「向上心を持ちづらい状況に置かれている」ことも少なくありません。
そしてここが特に重要なのですが、向上心を持てない理由を無視して「なぜやらないんだ」「もっと頑張れ」と伝えることは、部下の自尊心を傷つけ、あなた自身の信頼や立場を揺るがすリスクにもつながります。
悪意がなくても、部下にとってはプレッシャーや人格否定と感じることもあり、ハラスメントと捉えられる可能性があるのです。
また、時には部下本人が「成長したくない」「頑張る必要を感じていない」という価値観を持っている場合もあります。
そのときに重要なのは、「すべての社員が向上心を持つべき」という前提を一度外すことです。

部下の価値観に合わせて“割り切り”、求めすぎないマネジメントを選ぶことは、決して手抜きではありません。むしろ、多様性を尊重する現代の組織においては、必要なマネジメントスキルのひとつです。
向上心が見えない部下:タイプ別特徴と対策
部下の“やる気のなさ”にはパターンがあります。それぞれのタイプに応じて関わり方を変えることで、マネジメントの負担を軽減できます。
🔸タイプ1|現状維持タイプ

「今のままでいい」「変化が面倒」と考える、安定志向の強いタイプです。
■ 判断するための特徴・行動傾向
- 自分の仕事に関する改善提案や提案発言がほとんどない
- 異動や新しい仕事に対して拒否反応を示す
- マニュアルや過去のやり方に強くこだわる
- 「前例がない」「今のやり方で困っていない」が口癖
- 評価や昇進にあまり関心がない
■ NGアプローチ
- 「とにかく変われ」「挑戦しろ」と圧をかける
自分のペースや安定を大切にするタイプにとっては、変化を強制されると防衛本能が働き、反発・萎縮しやすくなります。 - 「他の人はもっとやってるよ」と比較する
他人との比較は、モチベーションの源泉にはならず、「自分は評価されていない」という劣等感を助長します。 - 「このままだと評価されないぞ」と脅す
外発的動機づけ(評価や昇進)に関心が薄いため、響かないだけでなく、職場への不信感を増す可能性があります。
■ 改善に向けた対策
- 変化を「負担」ではなく「安心」に見せる
変える理由やメリットを丁寧に伝える(例:「この方法にすると、定時で帰れるようになる」) - 小さな成功体験を用意する
一気に大きな変化を求めず、簡単な改善から着手 - 選択肢を提示して任せる
強制ではなく「AとBならどちらがいい?」と選ばせることで主体性を引き出す - 安定志向も組織にとって必要であると認める
安定性を評価するフィードバックも取り入れることで、安心感が育ちやすくなる
めのめMEMO
個人的に一番対処が難しいと感じるのが、このタイプです。現状にある程度満足していたり、「変わらず安定していること」自体に価値を感じるので、大幅なマインドチェンジが難しいです。
基本的には、新しい取り組みも手順を本人に用意させ承認してあげてから実行させるなど、既存の延長線上に緩やかにステージアップを用意させるのがよいでしょう。
変化を好まないというのは強みでもあります。
わたしの会社の中には難易度は高くないが発展性がないため、多くの人がやりたがらない仕事というものが存在します。長年文句もいわずにこのような仕事を継続することで一定の評価を受けている後輩も存在します。
タイプ②:自信がない部下

「頑張ってもムダ」「自分には無理」と思い込み、向上心を抑え込んでいるタイプです。
■ 判断するための特徴・行動傾向
- 新しい仕事の打診に「自分には無理です」と消極的
- 過去の失敗を引きずっているような発言が多い(例:「また怒られるかも」)
- 報連相の頻度が少なく、ひとりで抱えがち
- 他者からの評価に過敏で、ミスを恐れて行動を避ける
- 自分の強みを自覚できていない(「得意なことがわからない」と言う)

■ NGアプローチ
- 「もっと自信持てよ」と抽象的に励ます
意図は前向きでも、本人には「無責任に言ってるだけ」と響かず、「自信がない自分はダメなんだ」と思わせがちです。 - 「前に失敗したけど、今回は大丈夫だろ」と軽く流す
過去の失敗に真剣に向き合ってほしいタイプにとっては、無神経に感じて信頼を損なう恐れがあります。 - 成果が出ないときに一切触れない
自信がないタイプは「もう見放された」と感じやすく、関係性が悪化しがちです。沈黙は誤解を生むことも。
■ 改善に向けた対策
- ロールモデルを紹介する
似た境遇から成長した先輩の事例を見せて、「自分にもできるかも」と感じさせる - 小さな成功体験を積ませる
すぐ結果が出るタスクや、本人の得意分野を活かせる業務を任せて成功体験を提供 - 過程を丁寧に承認する
結果よりも「取り組んだこと」「工夫した点」を言語化して承認する - フィードバックをポジティブに構成する
改善点があっても「ここは良かった」を先に伝える順序を守る
めのめMEMO
このタイプは一度波にのれば、伴走をしっかりとすれば改善することが多いです。
若手の部下の一人は、慎重な性格で自分のやることに自信のないタイプでしたが、今では安定して成果のだせるようになり、安心して仕事を任せることができています。
わたしが行ったのは、とにかく徹底的に具体的なポジティブフィードバックをすること、努力の方向性を整えてあげることだけです。元々真面目で振り返りなどもしっかりするタイプなので、良かったプロセスは具体的に取り上げて褒めて継続するよう伝え、本人からたくさん出てくる問題は取り組むべき課題だけを理由も含めて伝えるだけです。
タイプ③:無関心に見える部下

仕事をする目的や意義を見失い、目の前の業務に意義を感じられないタイプです。
■ 判断するための特徴・行動傾向
- 「なんのためにこの仕事をするのか」とよく質問してくる
- 受動的で、必要最低限の仕事しか手を出さない
- 周囲や組織に対してシニカル(皮肉っぽい)な態度をとる
- 将来のキャリアについて尋ねても答えが曖昧
- 社内外の活動や成長機会への関心が薄い

■ NGアプローチ
- 「働くってそういうもんだよ」と割り切らせる
本人は“納得感”を求めており、こうした発言は「この人は話しても無駄」と感じさせてしまう危険性があります。 - 「いいからやれ」と言い切る
意味や背景が見えないまま業務を振られると、ますます興味ややる気を失ってしまいます。 - 「文句があるなら辞めれば?」と突き放す
本当に辞めるか、心を閉ざすかのどちらかに向かいやすく、関係が一気に断絶する可能性があります。
■ 改善に向けた対策
- 他部門・外部の人と関わらせる
新しい視点を得ることで、仕事の意味を再発見するきっかけになることがある - 業務の背景や意義を具体的に共有する
「これは顧客の○○に繋がっている」「この業務が終われば皆が助かる」といった意味づけを明示 - 個人の価値観や興味に結びつける
過去の経験や趣味との共通点を見出し、「君の○○力が活かせる業務だよ」とつなげる - 将来について対話する時間を持つ
理想の働き方や、人生で大切にしたいことを聞き、会社との接点を探る
めのめMEMO
表面的な態度が「仕事に無関心」であっても、何に関心を持ち、なぜ仕事に関心を持てないかは、人によって千差万別のため、この問題は難しいです。一方で、関心の向き先が仕事に向かえば自然と問題解決するのがこのタイプです。
部下に分かりやすく「仕事に無関心」なタイプがいました。仕事は最低限で残業はしない、後ろ向きで皮肉屋、将来のキャリアも含めて自分の話しをしたがらない…といった感じです。
あるとき彼と客先で仕事があったのですが、彼がミスをしてクライアントからきつくお叱りを受けるという事態がありました。危機感を感じるほど落ち込んでいたため、いつもは誘わない食事に誘いました。
お酒が入った彼の口から最初に溢れ出たのは、クライアントへの罵詈雑言や会社への文句でしたが、次第に「キャリアの不安」や「やりたいことはあるが、自分の中でも漠然としており、言い出せない」という本音も語ってくれたのです。
そう、彼は決して仕事に関心がない訳ではなかったのです。
補足:複数タイプが重なっていることも

現実には、これらのタイプは単独で現れるとは限りません。
たとえば「現状維持タイプで、かつ自信喪失タイプ」というように、複合的に現れるケースもあります。
大切なのは、「なぜこの部下はそうしているのか?」という視点で背景を丁寧に見極めることです。
NGアプローチの多くは、「言っていること自体が間違い」というよりも、伝え方やタイミングの問題です。
一呼吸おいて「この言葉で、相手はどう感じるだろう?」と想像する習慣が、信頼関係づくりには効果的です。
「向上心がない≠悪」上司には合理的な判断も必要

部下に向上心を求める前に、「この人が今の状態で働ける最適なポジションや関わり方はどこか?」と考えることが、マネジメントの本質です。
すべての部下に同じ熱量を期待しても、あなたも本人も疲弊してしまいます。
だからこそ、「成長を求めない」ことも、十分に選択肢として許容すべきです。
場合によっては、時間で改善するケースもありますし、「うちの部署では活かせないけれど、別の現場なら活躍できるかもしれない」と判断し、配置転換や業務分担を見直すことも大切です。
割り切り=放棄ではなく、割り切り=最適化と捉えて、感情に振り回されない関わり方を目指しましょう。

人口減少時代に向上心を前提にするのはリスク、適材適所が成果を生む

向上心は会社員が成果を出すために重要な資質ですが、すべての人が同じように持てるものではありません。
だからこそ、上司に求められるのは「変えようとすること」ではなく、「理解し、合わせる力」です。
あなた自身のストレスを減らすためにも、「部下の向上心を引き出す」ことにこだわりすぎず、本人のペースに合わせたマネジメントに切り替えてみてください。
明日からできるアクション
- 「向上心があって当たり前」という前提で部下に接していないか、振り返ってみる
- 部下との1on1で、「なぜやる気が出ないのか」「何があれば前向きになれそうか」を一緒に考えてみる

「育てる」より「引き出す」、「変える」より「受け入れる」——それが現代のマネジメントの基本です。
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