HSP(繊細さん)の部下への向き合い方と考えるべき対応法

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最近、部下とのコミュニケーションに難しさを感じることはありませんか。
少し注意しただけなのに必要以上に落ち込んでしまったり、周囲の雰囲気に影響されやすそうだったり──
「最近の若い人は繊細だ」と感じつつも、どう向き合えばいいのか分からず戸惑っている管理職の方も多いはずです。

そんな中で耳にするようになったのが「HSP(繊細さん)」という言葉。
部下から打ち明けられたり、ネットで見かけたりして、

特別な配慮が必要なのか…?

下手に扱うと逆にまずいのでは…?

と不安を感じている方もいるかもしれません。

ただ、HSPは特別な人の話ではありません。
全人口の約5人に1人が持つといわれる当たり前の“気質”であり、
これからの職場では「HSPかどうかを見極める」よりも、
そうした気質の人がいる前提でマネジメントを考えることが重要になっています。

傾聴する男性

この記事では、会社員歴15年以上、現役で10名以上の部下を持つ管理職の筆者が、
HSPの基本的な考え方を整理した上で、部下を腫れ物扱いせず、かといって一律対応で疲弊もしない、
現実的なマネジメントの向き合い方を自身の経験も交えて解説していきます。

読み終えるころには、管理職としてのステップアップ向けた具体的な一歩が見えてくるはずです。

「部下に嫌われたくない」…と、悩んでいる人はこちらも記事も参考にしてください

目次

HSPかどうかを見極める必要はない

比較する研究者

結論からお伝えします。
部下がHSPかどうかを上司が見極める必要はありません。

HSPは病気や診断名ではなく、生まれ持った「気質」の一つです。
全人口の約5人に1人が該当するといわれており、
職場にいてもまったく不思議ではありません。

だからこそ重要なのは、
特定の部下をラベリングしたり特別扱いしたりすることではなく、
あなたが繊細な気質の人が一定数いる前提でマネジメントを考えることです。

しっかり理解してもらうためには、論理的にしっかり説明されないと伝わらない

本人の成長のためにも多少のプレッシャーには慣れてもらうべきだ

こうした従来の一律なマネジメントは、
意図せず部下の力を発揮しにくくしてしまう場合があります。
一方で、HSPの部下に合わせすぎる必要もありません。

求められているのは、腫れ物に触るような配慮ではなく、
指示やフィードバックの出し方、環境づくりを少しだけ調整する柔軟さです。
それだけで、繊細な気質を持つ部下は安心して力を発揮でき、
結果的に上司自身のマネジメント負荷も下がっていきます。

めのめ

わたし自身もそうでしたが、この手の課題に打ち当たると、その課題に対する直接的に効果的な解決方法を考えてしまいます。
しかし、HSPの件に関しては、環境の変化として受け入れる方がスマートでした。

HSPへの理解は、「気を使うための知識」ではありません。
これからの職場で、無理なく成果を出し続けるための
現代のマネージャーに求められる基本的な姿勢だといえるでしょう。

中間管理職の基本的な役割について知りたい方はこちらを読んでみてください

HSPとは?

HSPの定義と概要

はてな

HSPとは Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン) の略で、
アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士によって提唱された概念です。
病気や障害ではなく、生まれつき持っている「気質」の一つとされています。

HSPの特徴は、刺激や情報を人一倍強く、そして深く理解、つまり受け取ることです。
音や光、人の感情、場の空気といったものに敏感で、
物事を慎重に考え、丁寧に行動する傾向があります。

この特性を持つ人は、全人口の約15〜20%、
つまり 5人に1人程度 いるといわれており、決して珍しい存在ではありません。
「最近よく聞く言葉」という印象があるかもしれませんが、
実際には以前から一定数存在していた気質だと考える方が自然です。

日本で注目されている背景

雑踏の中の孤独

近年、日本でHSPという言葉が広まった背景には、
働き方や職場環境の変化があります。

コロナ禍をきっかけにリモートワークや多様な働き方が進み、
「成果だけでなく、プロセスや心理的安全性も重視する」という考え方が
一般的になってきました。
その中で、これまで「気にしすぎ」「弱さ」と片付けられがちだった特性が、
言語化され、可視化されるようになったのです。

また、SNSや書籍を通じて、
「自分は他の人より刺激に敏感かもしれない」と
自覚する人が増えたことも、認知が広がった理由の一つでしょう。

重要なのは、HSPの人が急に増えたわけではないという点です。
見えるようになり、語られるようになった──
それが今起きている変化だといえます。

めのめ

多様性が社会に認められるようになったことで、これまで「自分が悪い」と思い込み、世間の常識の陰で我慢してきた人たちの気質が、会社員にありがちな特性の一つとして認知されるようになりました。
今後も、こうした気質や特性が、さらに見つかっていくのかもしれませんね。

HSPに共通する行動特性(DOES)

悩みの種

HSPの提唱者であるアーロン博士は、
HSPに共通する特性を 「DOES(ダズ)」 という4つの要素で整理しています。

HSPに共通する4つの特性

  • D:Depth of processing(深く処理する)
    物事をじっくり考え、多角的に検討する傾向があります。
    その分、意思決定や行動に時間がかかることがあります。
  • O:Overstimulation(刺激を受けやすい)
    音、光、人混み、周囲の感情など、外部からの刺激を強く受け取りやすく、
    疲れやすい傾向があります。
  • E:Emotional responsiveness and empathy(感情反応が強く、共感力が高い)
    他人の感情や場の雰囲気に影響されやすく、
    共感力が高い反面、傷つきやすさも併せ持っています。
  • S:Sensing the subtle(些細な刺激に気づく)
    表情や声色、場の空気など、他の人が見過ごしがちな変化に敏感です。

これらは優劣ではなく、あくまで傾向です。
すべてが強く当てはまる人もいれば、一部だけ当てはまる人もいます。

診断ができない理由と上司が注意すべき点

妻のNG

HSPは医学的な診断名ではありません。
そのため、上司や周囲の人が「この人はHSPだ」と判断したり、
ラベルを貼ったりするものではありません。

めのめ

疾患ではなく気質なので、医師も診断することはできません。医師が診断できるのは、二次的に発生する適応障害やうつ病などです。

職場で大切なのは、
「HSPかどうかを見極めること」ではなく、
HSP的な傾向を持つ人が一定数いると理解することです。

同じ注意や指示でも、
人によって受け取り方や負荷のかかり方は大きく異なります。
その違いを個人の弱さとして片付けてしまうと、
本来発揮できたはずの力を引き出せなくなってしまうのです。

めのめ

大事なのはHSPを見極めることではなく、HSPの部下がいる可能性を踏まえて、マネジメントへの取り組み方を考えることが重要です。

HSPが認知された社会でのマネジメント法

改善ポイント

日本人サラリーマンたち

まず押さえておきたいのは、
HSPの部下に対して特別なマネジメントを用意する必要はないという点です。
重要なのは、誰に対しても「伝わりやすく、無理のないやり方」に少し寄せていくことです。

その視点に立つと、以下のような工夫は自然な改善策になります。

指示の出し方は「具体・明確」を基本にする

HSPの傾向がある部下は、物事を深く考える分、
曖昧な指示ほど不安が大きくなり、答えがないことも考え続けてしまい、
動きづらくなります。

指示出しで明確にすべきポイント

  • 何をゴールとするのか
  • どこまでやれば十分なのか
  • いつまでに必要なのか

この3点を明確にするだけで、
無駄な不安や確認の往復を減らすことができます。

これはHSPに限らず、
チーム全体の生産性を上げる基本でもあります。

めのめ

いわゆる「丸投げ」で成長を期待するスタイルを主張する人もいると思いますが、生産性を考えれば「何を考えるべきか」は上位者が指示すべきです。
もし、管理職候補者でステップアップを期待する際は、「何を考えるべきか」も「考えてほしい」と期待や意図をハッキリ伝えることが重要です。

フィードバックは”人格”と”行動”を切り分ける

注意や指摘をする場面では、
人格ではなく行動や成果にフォーカスすることが重要です。

なんでこんなこともできないんだ

ではなく

この部分は、こう修正してほしい

さらに、できている点も合わせてフィードバックすることで、
心理的な安全性が保たれ、次の行動につながりやすくなります。

感情的な叱責や、場の空気で押し切る指導は、
HSPの部下にとっては過度な刺激になりやすく、
結果的にパフォーマンスを下げてしまいます。

めのめ

深く考えすぎることで、それでも自責してしまうケースもあります。
その場合、できるだけ相談できる人を回りに置くことや、相談してよい雰囲気づくりをしてあげることも有効です。この際に、メンターや技術サポート、相談役など、役割として関係性を作ってあげると◎。

自分に合ったペース配分を一緒に探索

HSPの傾向がある部下は、
周囲の期待を敏感に察知し、無茶なペースで頑張りすぎてしまうことがあります。
一時的に成果が出ていても、気づかないうちに疲弊してしまうケースは少なくありません。

そこで意識したいのが、
無理なく続けられるペースを一緒に確認する関わり方です。

ペース配分確認ポイント

  • 今の業務量は適切か
  • 繁忙期と平常時で、どのくらいの差があるときつくなるか
  • 調子が落ちたとき、どんなサインが出やすいか

こうした点を言語化し、上司であるあなたが承認するだけでも、
部下自身が自分の状態を把握しやすくなります。

めのめ

私の部下に同期同士で仲の良い2人がいました。一方が優秀で要領もよいタイプ、もう一方は真面目ですが思考が固く視野が狭くなりがちなタイプ。後者の部下は力量に差がついていく現実から、自分を責めてしまい、体調を崩して一時休職していました。
この件の教訓は、経験の浅い内は、自分のペース配分を見つけられるように、上位者のマネジメントが必要だということです。
もちろん、休職していた部下は、今では元気に復帰しています。

一律マネジメントのNG例

CAUTION

これまで当たり前とされてきたマネジメントの中には、
HSPの部下がいる前提では逆効果になりやすいものがあります。
あなたが現在やってしまっていないか確認してみてください。

NG例①:みんなの前での指摘・叱責

公開の場での指摘は、
本人だけでなく周囲の感情や視線も含めて受け取ってしまい、
必要以上にダメージを与えてしまうことがあります。

指摘や改善の話は、できる限り個別の場で行う方が建設的です。

めのめ

注意してほしいのは、HSP気質を持つ本人以外のケースもNGという点です。共感力の高い人は、他人の感情や場の雰囲気に強く影響され、大きなストレスになるためです。
手間と感じるかもしれませんが、場を仕切り直すことは、自分の感情を落ち着かせる効果もあるので、より効果的に指摘・叱責できるようになりますよ(経験談)

NG例②:「いい感じで」「適当にやって」という曖昧指示

抽象的な言葉は自由度が高い反面、
深く考えるタイプの部下ほど迷いを生みます。

「察してほしい」は、マネジメントを放棄しているのと同じになりかねません。

NG例③: プレッシャーで動かそうとする

このくらいで音を上げたら、出世できないよ

君だけじゃない。先輩たちも同期たちも、みんな同じ条件なんだから

こうした言葉は、
奮起ではなく萎縮につながることが多くあります。

プレッシャーをかけなくても成果が出る設計を考える方が、
長期的にはチームも上司も楽になります。

環境を少し整えるだけでも効果は大きい

在宅勤務withスピーカーフォン

HSPの部下は、
業務内容だけでなく環境からも影響を受けやすい傾向があります。

試してみたい環境整備

  • 周囲の音が気になる場合は、イヤホンやヘッドホンの使用を許可する
  • 強い光が当たらない席配置を検討する
  • 作業用ブースなど、気分転換になる会社の設備や制度を紹介する

大掛かりな制度変更は不要でも、
「集中しやすくなる選択肢がある」と伝えるだけで、
安心して仕事に向き合えるようになります。

HSPを”強み”に変える

リセットボタン

HSPの部下は、
細かい点に気づき、相手の気持ちを考え、
慎重に仕事を進める力を持っています。

HSPの部下に任せてみたい仕事

  • 品質チェックやレビュー
  • 顧客対応や調整役
  • リスクの洗い出しや事前検討

こうした場面では、
HSPの特性がチームの支えになることも少なくありません。

特性を矯正しようとするより、
活かせる場を用意するという視点を持つことが、
結果的にマネジメントを楽にしてくれます。

めのめ

人を活かすという視点で新たな役割を与えることで、職場の発展に繋がるケースがあります。私の職場の現在の作業チェックリストやリスクの洗い出しプロセスは、HSPの部下が任せた役割の中で生み出し、定着させたアセットです。

HSPの理解は、管理職として成長の第一歩

晴れやかな出勤

HSPは、特別な人の話ではありません。
全人口の約5人に1人が持つといわれる、ごく一般的な「気質」です。

だからこそ、
部下がHSPかどうかを見極めたり、
誰かを特別扱いしたりする必要はありません。

必要なのは、
繊細な気質を持つ人が一定数いるという事実を飲み込んだ上で、マネジメントのやり方を少しだけ調整することです。

取るべきマネジメント方法

  • 指示を具体的にする
  • 人格ではなく行動にフィードバックする
  • 無茶なペースになっていないかを一緒に確認する
  • プレッシャーではなく仕組みや環境を整備することで行動を支援する

こうした工夫は、HSPの部下だけでなく、
チーム全体の働きやすさや生産性を底上げしてくれます。

HSPへの理解は、「気を使うための知識」ではありません。
管理職として組織で長く、安定して成果を出し続けるための現代的なマネジメントスキルです。

まずは”前提”を見直してみる

この記事を読んで、
「自分はHSPにどう向き合うべきか」と考え始めた時点で、
すでに一歩目は踏み出せています。

最初にやってみてほしいのは、
特別な施策を増やすことではありません。

マネジメントのチェックリスト

  • 曖昧な指示を出していないか
  • プレッシャーで動かそうとしていないか
  • 部下のペースを把握できているか

こうした自分のマネジメントの前提を、一度言語化してみることです。

HSPを「理解すべき対象」として捉えるのではなく、
環境の変化として受け入れる。
その視点に立てるようになると、
マネジメントは驚くほどシンプルになっていきます。

部下を変えようとしなくていい。
自分だけががんばりすぎなくてもいい。

多様性が進んだ社会に合ったマネジメントへ、
今日から少しずつアップデートしていきましょう。
この記事がその手助けになれば嬉しいです。


本記事は以下の資料を参照しています。

溝部 宏二 著 『「それって本当にHSP?」~精神科医が観たHSP概念普及の功罪~』

https://www.i-repository.net/contents/outemon/ir/405/405230302.pdf
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